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2010年1月

2010年1月15日 (金)

子宮頚がん予防ワクチン ー5万円は高いか安いか

日本でもようやく子宮頚がん予防ワクチンであるサービックスが承認され、2月から受けることができるようになりました。ある意味画期的なことなのですが、実際にはどう私たちに関わってくるのでしょうか。

まず子宮頚がんの基礎知識をお示しします。

・世界では年間約50万人が子宮頸がんを発症し、約27万人がこの病気で死亡していると推計されている。日本では、年間約15,000人が子宮頸がんを発症し、約3,500人が死亡している。

・20代後半から発症率が上昇し始め、30代に一つの大きなピークがある。近年は若年化の傾向にあり、20代、30代の女性に発症するがんの中では、子宮頸がん(上皮内がんを含む)の発症率が最も高い。

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(情報提供:グラクソ・スミスクライン株式会社)

・一生の間にすべての女性が一度は感染し、多くは免疫によってウィルスは消失する。子宮がんの原因となるハイリスクのものは16型と18型で7割近くを占める。今回認可を受けたワクチンはこの2つに作用しほぼ100%がん発症を予防する。3割のウィルスについては予防できないのでワクチンを接種しても定期的な検診は必要である。

・早期の子宮頚がんなら一部の切除で治癒できる。進行すると子宮を摘出することもある。20代からの発症も多いため、場合によっては治療が出産前に不妊の原因となり予防は重要と考えられる。

・女性全般に有効だが性体験前の若い段階(11から12歳)で接種するのが最も効果的。

・オーストラリアでは12から26歳まで完全に無料。アメリカでは州により公的、民間保険で負担されている。フランスでは14歳女子を対象に医療保険で負担。

・日本では必要な3回の接種で5万円前後の費用が掛かり、現在公的にどこまで負担するかを検討している。

・広い意味ではパピローマウィルスは性感染症といえる。高校3年生の40%が性交渉経験があるにもかかわらず、日本の16から26歳女性の75%は子宮頚がん、パピローマウィルスの存在を知らない。啓もう活動の普及は急務といえる。

他に感染症ががんの原因になるのは、B型、C型肝炎ウィルスによる肝がん、ヘリコバクター・ピロリによる胃がんですが、それぞれワクチン、インターフェロン、除菌などによってがん発症を予防できるようになりました。

日本はすべてのワクチンに対して導入は慎重です。副作用による不幸な事故が何件かあり、認可する厚生省の安全管理が厳しく問われてきたためです。しかし一方では、交通網の発達によって感染症が国際レベルで急速にまん延するようになって、今回の新型インフルエンザのワクチンのように速やかな対処が求められてもいるのです。

以前より、ほとんどの先進国では自己負担なくワクチンを受ける環境が整っていました。日本は不景気で財源の無い状況ではありますが、速やかな啓もうとワクチンの公的支援を求めていきたいものです。

子宮頚がんは予防も早期診断も可能ながんであるという認識が普及し、検診やワクチンへの関心が高まることがまず必要かもしれませんね。

2010年1月 8日 (金)

食道がんとの闘い

指揮者の小沢征爾さんが食道がんのため半年間の休養を取られるとの報道がありました。

2007年の統計では男性9900人、女性1769人が食道がんで命を奪われています。がん死亡全体の3.5%を占めます。食道がんの原因は喫煙、飲酒、塩分の多い食品、熱い飲食物、アク抜きの十分でないワラビなどと言われています。塩分や飲酒は量に比例して増加します。熱い茶や奈良の茶粥は食道熱傷を来し関連が指摘されています。

小沢さんの場合は、近親者がお二人食道がんを発病されており遺伝的な要素が強いのではないかと考えられます。主治医の話では表在性の早期のものとのことですから完治は十分期待できるでしょう。

消化器外科医にとっては食道がんはすい臓がんと並んで手ごわい相手と言えます。早期の段階で診断されにくく、ある程度進行していて手術での治療となった場合は長時間の大手術になることが多いからです。今では手術器具や人工呼吸器の改良によって安全性は格段に向上しましたが、20年前まではまさに命がけの手術でした。通常、頚部、胸部、腹部の3つのチームに分かれ手術を開始します。4名から8名ほどの外科医が患者さんの負担を軽減するためにできるだけ短時間での手術を目指すのです。手順は簡単にご説明すると、頚部や胸部の入り組んだ血管や神経を傷つけないように細心の注意をしつつ頚部から胃の上部までの食道を切り取り、胃を筒状に成型するか大腸を切離したものを頚部まで引き上げ食道とつなげ、十二指腸と途中で接合することになります。切離やつなげる(吻合)操作が多く、出血の多い部位でもあり止血にも時間がかかりますからどうしても終了までに5時間から10時間という時間が必要になります。一般の手術と比較すると手術の負担が大きいため、術後も血圧、呼吸などの全身状態の管理、出血、腸液の漏れのチェックなど気を抜くことはできません。手術をうまく乗り越えても術後しばらくしてからの転移や再発が少なくなく、外科医としての無力さを痛感させられることは多々ありました。

小沢さんの場合は早期とのことですので、内視鏡での手術で完治することが期待できます。人間ドックで発見されたそうで、ご本人は人間ドックを受けて良かったとコメントされているそうです。一日でも早く回復されて、ご活躍されることをお祈りしています。

がん撲滅、がん克服というスローガンについて

外科医、健診医としてがんと長年向き合ってきてがんの現状を知る者として、がん撲滅、がん克服というスローガンには違和感を抱かざるをえません。

外科医としての手術による治療と並行して、がん免疫治療を目指してがん関連遺伝子の研究に携わっていました。その経験から言えることは、がんは以下のようにとても巧妙で厄介なものだということです。

・老化、炎症、発がん物質等によって遺伝子レベルの傷が蓄積して発がんする

・正常細胞と比べて増殖が速く急速に増大、進行してゆく

・ある程度の大きさになると転移を起こし複数個所、隣接や遠隔の臓器で増殖する

・抗がん剤、免疫治療、放射線療法を続けてゆくと、完治できない場合は耐性ができて効果が減じてくる

・早期では症状はほとんどなく、進行がんや末期がんになって初めて症状を呈する

・遺伝子そのものに、ある時期が来ると発がんするプログラムが組み込まれている

・遺伝子を操作して発がん、がんの進行を阻止するには、その臓器のすべての細胞の遺伝子に作用しなくてはならず、理論的には不可能といえる

・肝がん(B型C型肝炎ウィルス)、胃がん(ヘリコバクター・ピロリ)、子宮頚がん(パピローマウィルス)は人と人との接触によって感染することで発症する

・免疫治療は正常細胞とがん細胞の相違点(抗原性)を見つけその部分を選択的に攻撃する必要があるが、がん細胞は巧妙に正常細胞に似せてカモフラージュするので攻撃しにくい

・従来の抗がん剤は細胞分裂の盛んながん細胞を攻撃するが、正常細胞でも白血球や腸粘膜のように細胞分裂が盛んな部位も攻撃され副作用が避けられないため、必要十分な量の抗がん剤を投与できないことが多い

・がん治療の基本は手術によるがん組織の切除だが、臓器の機能に障害を来すために十分に切除できないことがある

・がんの最大の外的因子は喫煙だが禁煙することは困難である

以上のことからがんの撲滅や克服というのは適当ではないように思うのです。

男性の5割、女性の3割が一生の間にがんを発症します。がんで重要なのはやはり発症頻度の高いがんの順番に1年に1回検診を受けることにつきるでしょう。具体的には、大腸がん、胃がん、乳がん、肺がん、子宮頚がんが頻度の高いがんです。

40歳を過ぎたら年1回のがん検診を欠かさず受けましょう。